友人でもある著者オロゴンさんの初の書籍。
「サイフの穴をふさぐには?」を読んで、感じた事や自分が思ったポイントを伝えたい。
サイフの穴をふさぐには? 学校も会社も教えてくれない税とお金と社会の真実
まずトータルとしての評価は「分かり易く読み易い」が挙がってくるのではないか。
恐らく書籍をあまり手に取らない人でも難読とはならないはず。
三崎ソウタというサラリーマンの青年を主人公に、神となのるブタの貯金箱に扮したフゴー・マネーリテがアドバイスをしていくもの。
ストーリー仕立てで読み手を飽きさせずに、登場する情報は濃いものが描かれている。
所得税と住民税の差から、NISAとiDeCoの違い、連帯保証人の怖さや給与明細の見方に至るまで詳しく載っている。
この一冊を社会で働いてすぐに見てしまえば、ある程度知識の根幹は出来るのではないか、そう思える内容となっている。
個別のお金に関わる部分は本編を見てもらうのが良いだろう。
当ブログでは、著者本人を知っているからこそ、こういう場所に力がこもっているのではないか。
私自身は「ここが学びになり面白かった」という点を中心に解説を交えながら伝えていく。
情報弱者と情報強者
まず書籍を読む時は「はじめに」に注目して欲しい。
著者本人が、この本をどういう気持ちで書いたのかがありありと書かれている部分なのだ。
オロゴン氏は元銀行員であり、言ってみればお金のプロとして活躍していたサラリーマンである。
しかし、自分のサイフに関してはザルな状況であったと言う。
オロゴン氏だけが、そうだったのではない。
周囲もそうだったとオロゴン氏は冒頭に伝えている。
後に雇われて社長をやる事になり、会社側と従業員側の情報差に驚く事になる。
この書籍が伝えたい最大級のポイントは「情報弱者と情報強者」についてだと私は思う。
本書を読む事で、何とか情報弱者の方を情報強者に一歩近づけよう、いや近づいて欲しい、そんな想いが籠もっているのではないか。
読み手の心がけとして「情報弱者」であると認識しながら「知らない事を素直に受け止める」のが大事であると感じた。
もし「そのくらい知ってるから」で生兵法のままでいれば、当然人生のどこかで大怪我を見舞う事になるだろう。
どんな書籍もそうだが、冒頭の「はじめに」を読む事で、読む時の心がけを得られる。
情報格差の広がり
本書には給与明細の見方が最初に登場している。
詳しい内容は本書をご覧頂くとして、私が注目したのは「情報格差」という点である。
給与明細をWEBで確認する会社は増えていると思う。
確かに一人ひとりに渡る様に紙を用意するのは、実務的に考えても非効率である。
結果的に「見るのが面倒だ」と思う人を増やしてしまった。
紙の時代ですらも、給与明細に何が書かれているのか、書かれていても内容がイマイチ理解出来ていない人は多かった。
今の時代は、もしかしたら「給与明細ってなんですか?」くらいの人がいるのかもしれない。
そこで語られる言葉。
❝ジョウジャク(情報弱者)❞は、不都合な真実から遠ざけられたまま、生きていくことになるんや。(44頁)
-フゴー・マネーリテ-
現実を色濃く語ったフゴーの一言であると思う。
世の中は残念ながら馬鹿の味方をしてはくれない。
それどころか「知らないなら知らないままでいてくれ」と感じてる節すらあるのだ。
富む者は情報の重要性を理解して自ら調べていく。
逆に貧しき者は情報の重要性を理解出来ずに取り残されて、本来得られる利得すらも捨ててしまっている。
残念ではあるが、全ての人が賢人として制度を利用されてしまうと国の財政が立ち行かなくなる可能性がある。
学校で全員をマネーの賢人にする訳にはいかないのだ。
ほぼ全員に関係のある税金の話が、学校でも会社でも全然教えられないっていうのはちょっとおかしくないか?(71頁)
-三崎ソウタ-
ソウタの疑問にフゴーはこう答えている。
国としては、国民が税金に対して無関心・無意識でいてくれたら、なんお抵抗もなく税金が徴収出来るよな。(72頁)
-フゴー・マネーリテ-
フゴーのこの一言には非常に大きな意味があると感じられてならない。
得たモノを失いたくない
源泉徴収について語る部分がある。
サラリーマンは税を払っている意識が少ないと言われる。
支払っている感覚が無いのだから「税金をどこに使われているかに関心がない」と言えるだろう。
税金の使い道を決めるのが、政治であると端的に言える。
サラリーマンが政治にそこまで興味が無いのは、当然の事の様に思えてならない。
ここでもフゴーは源泉徴収の説明の中で秀逸な一言を発してくれている。
人間、一度もらったモノを取り上げられるのには抵抗するけど、こうやってあらかじめ引かれると、引かれてることにすら気付かん人間もでてくる。(57頁)
-フゴー・マネーリテ-
プロスペクト理論と呼ばれるものである。
簡単に言うなら「得する事よりも損を最大限回避する」って事になる。
ファスト&スロー
例えば、社内のイベントでクジに当たって現金10万円を得たとしよう。
それを渡される。
想像して欲しい。
その後で「すみません、今のは間違いで1等は◯◯さんでした、2等がアナタさんです。こちら現金1万円になります。申し訳ありません」と現金10万円の封筒を取り上げられて現金1万円の封筒を渡されたとしよう。
物凄い喪失感を得るのではないか。
最初の0円から見れば、1万円のプラスであるのは間違いない。
それでも感覚としては「大きな損をした」という気持ちになるはずである。
源泉徴収は、まさにこの状態を避ける意味がある。
額面通りに給与を渡して、後に「税金を払って下さいね」としてしまうと「奪われた!」「損をした!」という気持ちが大きくなる。
容易に税を徴収する意味で、この源泉徴収という制度は非常に意味があるものになっているのだ。
フゴーも言う。
サラリーマンは税金を取られる痛みに対してめちゃくちゃ鈍感になってもうてる。(65頁)
-フゴー・マネーリテ-
国にとって意味のある行動がここにあるのだと知っておいて欲しい。
本書ではここから所得税と住民税について詳しく語られる。
累進課税についてや、給与の所得控除という現実に現金を残す方法も語られているので是非とも参考にしてもらいたい。
知ると知らないでは自分の財務状況の改善の意味で、大きな差となる。
お金持ちになりたい気持ちだけでは、なれない現実がある。
必要となる基本知識を身に着けたのなら、それを使う事もまた同じ位必要な事であろう。
会社におんぶに抱っこの時代じゃない
これからの時代を生き抜く意味で、とても大事な言葉をフゴーはソウタくんに言ってくれている。
今、日本は”日本型社会主義”から❝完全な資本主義❞に移行しつつある。(173頁)-フゴー・マネーリテ-
年功序列と終身雇用が当然の如く存在出来た今までの日本であれば、継続も可能だった。
今の時代は、あの世界の巨大企業になったトヨタ自動車ですら「終身雇用の維持が困難」と明言している。
企業が面倒を見てくれる時代が終わってしまったのだ。
会社がなくなってしまったら、どうやって食べていけばいいのか、僕は見当もつかないもんな。(85頁)
-三崎ソウタ-
ソウタくんの言葉は、自分にも当てはまると感じる人も多いはずである。
本書では、国民年金や厚生年金を含めた日本が誇っているセーフティネットについて解説してくれている。
「もしもの時」のものであるが、それを知らずに本来使える権利行使をしないままに困窮する人がいるのも事実。
「自分には関係ない」なんて思ってはいけない。
誰がいつどんなタイミングで陥るかは分からないのだ。
そんな時に「そういえば」と少し思い出せるだけで、聞きに行ったり、調べたりする事が出来る。
知識武装の重要性、まさに情報強者が生き残る時代を今一度心に置いて欲しい。
お金を貯めるなら支出見直し
本書のタイトルは「サイフの穴をふさぐには?」である。
給与明細の見方や税金の事、各種保険の内容、年金などのセーフティネットについて知るのも大事である。
ただ一番重要な事は、自らの収入から支出を引いて、お金を余らせる事であろう。
この点もしっかりと「どうすれば良いのか」が描かれていて、ヒントになる事が多数出ている。
その中で一つ抜き出させてもらった。
支出を下げる時に見直すべき点である「固定費」についてである。
最もインパクトがある家賃のポイントが書かれている。
これは個人的に考え方として大事なものであると感じた。
自分が家に何を求めているのかを書き出して、優先順位をつけましょう。(190頁)
物凄く重要な事であると改めて言いたい。
実はこの点を曖昧にして「何となく不動産屋で見てから決める」という人が多い。
不動産屋も商売である。
家賃についても「予算5万円位で」と言うと、大抵は5.8万位の案件までをターゲットとして出してくる。
家賃が多めの所に入居させる方が貰える手数料も広告費も多くなるからだろう。
(厳密にはもっと別の理由が点在する)
当たり前であるが、5万と5.8万では条件の良さに差が出てくる。
そうなると「無理をする事になるけど」と予算を超えた金額で契約してしまうのだ。
明確に自分の優先順位が決まっていれば、こういった事を回避出来る。
優先事項は「家賃」次に「広さ」であるとする。
それなら明確に「5万予算で2Kの物件。家賃は5万を超える物件は案内一切不要です」と伝えたり出来る。
もしこれでも「予算オーバーなんですがぁ~」と頭の悪い事を言ってくる不動産屋なら「意向に沿って頂け無い様ですので、別の不動産屋さんに行きます。ありがとうございます」と他に行けば良い。
ソウタくんも明確な優先順位を付けていなかった事が原因で予算オーバーの物件に住んでしまい、固定費を圧迫してしまったのだ。
本書では具体的に何%に抑えるという話も登場する。
参考にして、自分の今現状の固定費の見直しをソウタくんと一緒にやってみると良いだろう。
攻撃から身を守る
今までの部分は、本当は防御可能だった所を、自分の怠慢によって穴に発展している様な場合の話が多かった。
本書では、外から穴を開けようとする攻撃に対しての防御もしっかりと載っている。
借金の保証人についての解説。
また、DMで送られてくるクレジットカードの抜き取りなどの詐欺に対しての解説。
私には耳が痛い話でもあるが、アフィリエイトサイトからの誘導の危険性についても語られている。
今回はその中で、フゴーとの別れが近づいているソウタくんの元に現れた投資案件の話を回避するところを抜き出したい。
目の前にいる男が、今日会ったばかりの僕にそんな儲け話を持ちかける理由はなんだ?
「そもそも」を考えろ、考えるんだ、ソウタ!(242頁)
-三崎ソウタ-
結婚式で久しぶりにあった可愛い女性に誘われるままに、怪しい投資案件の話を聞かされるソウタくんの身に起こる事態。
しかし、すでにフゴーによってマネーリテラシーが身に付き始めているソウタくんには通用しなかった。
実はこういった事例は多いのだ。
特に「お金がない」と思っている人ほど、こういった形の「楽して儲かる」事案にひっかかりやすい。
当たり前の事を考えれば良い。
確かにそういう案件が世の中にはあるのかもしれない。
ただ、そんな情報は上層部の一部で共有されて全て吸い上げられているだろう。
何も持たない自分の元に、そんなオイシイ話が舞い込むはずがない。
冷静に考えれば誰にでも分かる事であるが、「カネが無い」という焦りが、正常な判断を出来なくさせてしまうのだ。
本書を読んでパターンを知っておくだけで、もし自分に同じ事が起こった場合に少し立ち止まれる。
「あれ?これって・・・ソウタじゃね?」となる訳だ。
これでいい。
これが情報強者というものなのだ。
完全に懸命に全てを自分の思うままの社会情勢で過ごす事は出来ない。
時には、フラっと楽に流れそうになる事があるものだ。
そんな時に思い出す。
「これはソウタなのか?」
それだけでも大きな防御力を手にしている状態だと言える。
マネーリテラシーを僅かながらに手にしていたソウタくんの凛々しき姿を思い浮かべて欲しい。
本書はスタートラインの書籍である
「おわりに」に書かれた部分を引用する。
世の中には、お金や税金、社会のルールを説明した本が山のようにあります。
ただ何となく僕が感じていたのは、そういった本の多くが、❝すでにある程度意識の高い人❞向けにつくられている、ということでした。
(中略)
あなたの周りにいる「社会のスタートラインに立ったばかりの方」もしくは「これからスタートラインに立つ方」へ、
どうかこの本をそっとお渡しいただければ幸いに思います。(「おわりに」)
-オロゴン氏-
そう、本書はお金に関する知識が非常に高い人が、それを更に高次元に持ち上げる為の書籍ではない。
しかし、私は思う。
恐らく世の中の9割の人は、何も知らずに生きていて、自分のお金を守る事も出来ずにガバガバのサイフを持っている、と。
ガバガバだけならまだしも、タイトルの通り「穴まであいている」状態なのだ。
これではお金を持つ富のある生き方が出来るのかと言われれば疑問しかないだろう。
まずは知識。
バビロンの大富豪でも、金貨の入った袋よりも智慧を授かれる石版が意味を為した事を思い出して欲しい。
人間が豊かに暮らす上で最も必要なものは智慧である。
今回で言えば、情報強者になる事こそが、自分の可能性を最大限に広げられる方法であると言える。
本書は、そのカネに対する知の賢人になる最初の一歩として活用するものであると私は思う。
しかし、知っているつもりになりながら、人にお金の基本の話が出来ない、教えられない人は改めて覗いてみるのが良いだろう。
「自分自身が何について知らなかったのか」
これを知れるだけでも大きな価値を生んでくれる。
オロゴンさんへ
魂を込めた執筆。
そして「ターゲットに伝わる文章で」練り込む意識し続けたであろう文面が素晴らしかったです。
またいずれ、オロゴンさんと、酒を酌み交わすのを楽しみにしています。
兄貴が登場しない程度に(身内ネタですみません)。
素晴らしい本でした!
あだち
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